窓が泣いていた

台所のストーブの上には赤いやかんが置いてある。湧き上がる水蒸気がゆるく立ち上って空間に消える、消えたと思ったら冷たい窓にぶつかり窓が曇る。その窓のまだ曇りかけのところから外の景色を覗いてみる。外からみれば紺色の半纏と黒いニットを被った背の高い人間が霧の隙間から遠くをみてぼんやりしている滑稽な姿が観えるのだろうに、こういう時いつも第三者の視点が欲しいなと思う。こういった記念的一瞬、決めポーズなどせずごく自然な表情の我を記録してくれるストーキングドローンがあったら面白いのに、、、冷たい空間と暖かい空間の狭間でぼんやり外を観ている。窓から伝わる冷気が肌をヒンヤリさせて少しくすぐったい、ガラス越しに見る曇りかけの外の景色はハッキリせず淡い色合いが混ざり合って何かの抽象画でも眺めているような気分になる。しとしと降り続く雨の音が余計に大きく聞えてくる。

午前中床が土間になった納屋に籠って竹籠を編んでいた。籠の底を編み終わった段階で作業を中断した。脚が冷たい、これ以上作業を続けるとしもやけになってしまいそうだ。作業を中断して昼食の用意をする。

作業場から上がり台所のガラス戸を開けると冷え切った台所、寒すぎて蛇口をひねる勇気が出ない、洗い物の着実に建造されて行っている。明日はれたら…暖かくなったら…そうして時間は流れていく…ストーブに火を入れながら今日もラーメンだなと自分に言い聞かせる。しょうがない…

ただラーメンを作っても面白くないので今日はジャガイモ、赤山芋、鬼火焚きの準備でもらった分厚いシイタケをざく切りにして鍋の中へ入れる。芋たちが茹で上がりホロホロになった頃にはゆで汁はとろみを帯びてシイタケのうま味が溶け出す。極上のだし汁の中に麺を放り込んでぐつぐつ煮込む。その間に自分の足裏を片方ずつ交互にストーブの金網に押し付けて足裏の炙り焼きも用意する。熱くて痛くなるかならないかくらいの絶妙なタイミングでじんわり炙っていくのがコツだ。鍋の中はとろみが強く麺が上手くほぐれなかったけれどそれもまたよし。仕上げにスープを入れてかき混ぜれば完成。名付けて”ホクトロシイタケラーメン”煮たことでシャリシャリからホクホクの触感に変化した山芋、分厚く切ったシイタケはまるで肉のようにしっとりした弾力、とろみの付いたスープが麺に絡みついてしっかりしたうま味。

美味しい…見映えは悪いが格別に美味い。

食事を終える頃には身体もすっかり温まり室内も暖まっていた、曇っていた窓からは滴が幾筋か零れている。空間が暖まりそして窓が泣いていた。